敷金返還と特約

敷金返還

何十年か前、アパート(賃貸マンションという言葉がまだあまり使われない昭和の時代、たいてい「部屋を借りる」といえば「アパート」と言っていました)を借りるには、入居時に「敷金」というよくわからないものを支払って、退去時に敷金のほんの一部が戻ってくるというのが一般的だったようです。まったく戻ってこなかったかもしれません。

昔の慣習はともかく、敷金は退去したあと、全額返還されるのが原則です。

しかし、故意過失によって、通常の使用では生じない傷や汚れがあれば、修繕して退去する義務があります。原状回復義務です。

ほとんどの人が、それほど大きく傷つけたり汚したりすることがないので、壁のクロスを数か所修繕するだけで、そのための費用も少額ですから、預けた敷金のほとんどが返還されます。

賃貸人(家主さん)としては、賃借人に少しでも多く「修繕」してもらって、自分の出費を抑えたいかもしれません。その内訳や金額が不当と思う賃借人としては、敷金返還請求について、内容証明郵便で主張したり、場合によっては法的措置を取ることになります。

 

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敷金についての法整備

平成10年前後でしょうか、敷金をなるべく返還したくない貸主と、原則どおり返還してもらいたい賃借人との間で、問題となるケースが目立ちました。

国土交通省で敷金に関するガイドラインを公表し、たいていはこれにしたがって敷金返還の目安にしましたが、それでも返還を渋る貸主や、昔ながらの慣習にしたがって「敷金はほとんど返さないもの」と信じている貸主の間で意見がまとまらず、賃借人の依頼を受けて行政書士が敷金返還請求する例がかなりありました。国土交通省のガイドラインを示すと、たいていの貸主は理解してくれました。

そして、敷金と敷金返還の問題がかなり知れ渡ったため、トラブルも減少し、その後、法整備も進んだので、現在、敷金返還について問題になるケースはほとんどないと思います。

しかし、敷金返還についてというより、入居時の条件・契約・特約についてきちんと納得していなかったために、退去時に問題になることがあるようです。

賃借料

上記はあくまでも原則です。法には強行規定と任意規定があります。敷金返還については、「当事者の考えはどうでも、とにかく規定通りにしなければならない」、という強制ではありません。自由に契約してよいのです。

人に物を貸して使用させれば、当然、「使用感」は生じます。パソコンを貸せば、キーボードに触れずにパソコンを使うことは無理ですのでキーボードには「擦れ」が生じるでしょうし、ハードディスクなどは多少なりとも劣化するでしょう。賃料をとっている場合、その「使用感」「劣化」はもともと織り込み済みなのです。その「使用感」「劣化」「磨り減り」が通常の使用によるものであれば、賃料に含まれます。さらに、人にパソコンを貸している間、そのパソコンの所有者自身は使用できずに不便かもしれません。そういう不便さの代償も含めて、賃料をとっているのです。それらが嫌なら人に貸すべきではありません。

 

マンション 特約 内容証明

 

特約に注意

しかし、上に書きましたように、賃貸借契約は強行規定ではありませんから、その契約内容を当事者間で修正することができます。「特約」をつければよいのです。

パソコンを使えばキーボードが多少なりとも傷みますから、賃借料を支払う他に、「返却時にキーボードを全部新品に交換すること」とか、「内蔵ハードディスクを△△社製の新品に交換すること」というような特約をつけることが可能です。

パソコンでなく、たとえばレンタカーなら、「返却時にエンジンを新品に取り替えること」「貸出時と同じ色で塗装しなおして返却すること」「車内を指定の方法で滅菌消毒し、新規に芳香剤を入れておくこと」という特約も可能かもしれません。

常識で考えて、このような特約はおかしいでしょう。おそらく借りる人はいないと思います。
本来、賃貸借契約では、通常の使用で賃借物の値打ちが下がる分は賃料に含まれているので、エンジンを使用したから新品にして返すという契約がおかしいと思うでしょう。

しかし、レンタカーを借りて運転すれば、ハンドルに汗も細菌も付くでしょうから、「返却後、当社が消毒ティッシュでハンドルを拭きますので、ティッシュ代として50円いただきます。」と言われると、それが正論のような気もしてきます。本来は、「通常の使用」ですから、そのような料金は支払わないのが一般的と思われます。

敷金返還請求

賃貸借での敷金返還請求の問題で考えましょう。
「賃借した部屋・借家を、賃借人退去後に清掃・消毒するから、その料金は賃料とは別に支払っていただきます」と言われると、「はい、わかりました。」と言う人が多いようです。むしろ、良識ある社会人として、そうすることが当然のような気がするかもしれません。

しかし、これについては、汚したまま引っ越さなければよいのであって、自分で掃除をすればなんの問題もありません。また、清掃の専門業者と同じように、特殊な薬剤や道具を使って清掃する必要はありません。「自分でできる通常の掃除」をすればよいのです。

賃借人が、「本来の使用、通常の使用をしていれば、本来それは賃料に含まれていて、別途、特別な費用は支払う必要はない」ということを知っていて、それでも、清掃費用を支出したいなら構いませんが、実は知らない人が多いのです。

特約をする場合、上記のような本来の権利義務を知った上でする必要があります。

敷金返還消費者保護

業者と一般客の場合、一般客は賃貸借契約や敷金返還について十分な知識を持っていないとしても不思議ではありません。それを利用して、業者は自分に有利なようにするかもしれません。実際、そのようなことが多く発生したので、「消費者契約法」ができました。業者の方が法律を知っていて、やりとり・交渉の経験も豊富だと考えられますから、無知な一般客(と言っては失礼ですが)を守るための法律です。

一般客(消費者)に不利な特約を結ぶのであれば、業者は「あなたには本来そのような義務はありませんので、この契約ですとあなたに不利です。しかし、貸主としては本来貸主が負担する分まで、あなたに負担してもらいたいのでが、それでよいですか?」というように明確に示さなくてはなりません。
実際、「それで良いです。私はそれで満足です。」という消費者(客)がどれくらいいるでしょうか。そうすると、多くの特約が成立しない可能性があります。

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敷金返還内容証明

消費者(賃借人)に不利な特約が成立したように見える場合がありますので、心当たりの方はご連絡ください。【内容証明】のメニューから【敷金返還】をクリックしてご覧ください。

敷金が何なのかがよく知られるようになり、敷金返還請求がめずらしくなくなりましたから、貸主もそのための対策を練っています。

法律では「イタチごっこ」ということがよくあります。そうは言っても、たいていは、良くないことを考えている人が優勢です。被害者が大勢出て、散々な目に遭って、社会問題化してから取り締まる法律ができることがほとんどです。せめて、現在活用できる法規は十分に使いましょう。

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